SCP-CN-4766
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アイテム番号: SCP-CN-4766

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: 現在のところ、SCP-CN-4766に対して有効な収容を実施する手段はありません。当該実体に関連する検証可能なすべての事象は、稀有な天体現象として流布するか、目撃者への記憶処理で対応してください。

説明: SCP-CN-4766はアジア圏出身の成人男性です。公的な身分を保持しており、過去の健康診断記録によれば、その生理学的構造は正常な人間と変わりありません。

SCP-CN-4766の異常性は、対象が地球外の宇宙空間へ向かって移動し続けている点にあります。財団が実施したあらゆる物理的な阻止の試みは、対象の移動を止めるには至りませんでした。対象は固体物質をすり抜けて通過する能力を有しており、そのプロセスによって地球から絶えず遠ざかっています。

付録: 当該オブジェクトは所持していたモバイル端末を通じて、自身のSNSタイムラインへ一連の文章を投稿しました。これらは現在、財団によって削除済みです。以下はその原文です。


小2の頃、親父が工場の図書室から一冊の本を借りてきた。

表紙は青く、輪っかを持った球体がプリントされていた。土星のことだ。当時はそんなの知らなくて、てっきり麦わら帽子だと思った。1ページ目を開いた途端、ガツンとやられた。真っ黒な背景に、光の点がぎっしりと詰まった写真。その下に、こう書いてあったんだ。「オリオン大星雲、地球から1344光年」。

1344。

九九を覚えたての俺には、その数字が途方もなくデカいものに思えた。夜、ゴザに寝転がりながら考えた。1光年がだいたい9兆4600億キロなら、それに1344を掛けたらいったい、いくらになるんだろう? 結局、計算はできなかった。ゴザがざらついて痛かったから。

それからというもの、その本を50回は読み返した。全部のページの角が丸まって、表紙が取れた時には、おふくろが米のりでくっつけてくれたっけ。アポロの宇宙飛行士が撮った写真もあった。月の地平線から地球が昇ってくる、青く輝いて、白い縁取りがついたやつだ。俺はそのページを何度も何度も指でなぞった。だからそこだけ、他のページよりテッカテカになっていた。

小学校の卒業文集を書く時、「私の夢」って欄があった。俺はそこに「宇宙に行く」と書いた。隣の席の女の子は「警察官になる」と書いていた。その子は俺の文をちらっと見て、「それ、夢じゃないよ」と言った。どうして?と聞き返すと、その子は言った。「それは空想って言うんだよ」。

たぶん、彼女は正しかったんだろうな。

中学で物理が始まって、宇宙に行くのがどれほど大変なのかを知った。高校の文理選択で理系に進もうとした矢先、親父に「理系は競争が激しいぞ」と言われた。まあ、確かにその通りだと思って、結局文系に進んだ。文系は天文学なんてやらない。地理の教科書に太陽系の章があって、水金地火木土天海冥1が載っていた。先生は1回の授業でそれを終わらせ、次の日にはもう、大気循環の章に移っていた。俺は大気循環のページの隙間に、太陽系のページを折り込んで栞にした。それ以来、二度とそのページを開くことはなかった。

大学は省都の学校に行った。寮の部屋には俺以外に5人住んでいた。4人はゲームに明け暮れ、1人は恋人とイチャコラしていた。俺はそのどちらにも属さず、ただベッドに横たわって天井を眺めるタイプだった。天井には、電球のソケットから窓辺まで、一本のひび割れが走っていた。夜に消灯すると、廊下の明かりがドアの隙間から漏れて、そのひびを照らした。それは、とても細い、細い川のようだった。俺はひびを見つめながら、頭の中でオリオン座にある星々のことを考えていた。

社会人になって最初に借りた部屋にも、天井にひびがあった。2軒目の部屋にもあった。3軒目はいわゆる脱法ハウス2で、天井は綺麗だったけど、壁に穴が空いていた。俺はそれをクレーターだと思って眺めていた。

天体望遠鏡を買った。2300元の6回払い。ベランダで組み立てたものの、眼前は向かいのビルの壁。灰色だ。視界の半分以上を、エアコンの室外機が占領していた。ピントをあちこち合わせて、一番くっきりと見えたのは、格力グリー製の室外機だった。横には赤い肌着が干してある。10分くらい眺めて、俺は望遠鏡を片付けた。

ベランダの隅に押しやる。望遠鏡のレンズキャップは、それから一度も外されることはなかった。

外す気がなかったわけじゃない。ただ、仕事から帰るといつも夜の10時を回っていて、シャワーを浴びたらもう、眠りたい一心だった。ゴロンと横になると、天井のあのひびが目に入る。天の川だ。俺はじっとそれを見つめる。見つめているうちに、そのまま眠りに落ちてしまう。

やがて、望遠鏡には埃が積もった。分割1回目の代金すら、まだ払ってないのに。なんてバカなんだろうと、自分でも思った。ガキの頃は「アンドロメダ銀河を見に行くんだ」なんて言ってたのに、大人になったら向かいのビルさえ、まともに見れていないんだから。

水曜日、朝の7時15分。目覚まし時計が鳴った。止めようと手を伸ばすと、サイドテーブルに手が届かない。何度か空を切った。そこで俺は、目を開いた。

天井が、鼻のすぐ先にある。

"見上げる"って感じの距離じゃない。鼻先が天井にくっつきそうだった。少し剥げのある白いペンキが、はっきりと見えた。月面の高解像度写真みたいに。

考える暇もなく、背中が天井に吸い込まれた。それからコンクリート。鉄筋。遮音材。上の階の住人が敷いているフローリングと防湿シート。通り抜ける時、それらは水みたいに俺の体を流れていった。いや、俺が水みたいになって、それらの中を流れていったのかもしれない。

上の階の王ワンおばさんは、ちょうどポトスに水をやっていた。人ん家の床のド真ん中から、パジャマ姿で、寝癖をつけたままの俺がヌッと這い出すと、おばさんは霧吹きを持ったまま俺を見つめた。俺は口を開き、「おはようございます、王さん」と言った。

おばさんは何も言わなかった。俺が浮かび上がっていく時、ポトスの葉っぱがわずかに揺れた。

屋上に出てからは、もう語るようなこともない。鳩がバサバサと逃げていった。左側を鉄塔がかすめる。基地局のアンテナがいくつもぶら下がっていた。「星辰の海」と書かれた看板があった。不動産の広告だ。ちらりと目をやったが、看板はどんどん遠ざかっていった。

地球も同じだ。

最初は街全体が見えた。それから省全体。そして海岸線。雲が下に広がっていく。白くて、厚くて、冬の綿布団みたいだ。太陽の光が雲を照らし、目が眩むほど明るい。こんな角度から雲を見たのは初めてだった。昔、飛行機に乗った時にも、似たような景色を見た。綺麗だなあと思って写真を2枚撮ったら、すぐに寝落ちしてしまったんだが。

気温が急激に下がり、何度かくしゃみが出る。スマホの電波が途切れ途切れだ。カメラアプリを開いて、地球を1枚撮った。写真の中の地球は丸くて、青くて、白い縁取りがついていた。

本に載っていた写真と、まったく一緒だった。

スマホをしまう。周りはとても穏やかだ。想像していたよりも、星はずっと多かった。ずっと、ずっと。一つ一つ光っているんじゃなくて、一面に広がっている。黒い布の上に、米袋をひっくり返したみたいに。左の方にオリオン座が見える。ベルトの星が斜めに並んでいる。本で見た通りだ。30年眺めてきて、初めて頭を上げずにそれを見た。

なんだか笑えてくる。地上から何キロ離れているかも分からない場所に浮かんでるっていうのに、周りの星の名前が一つも分からない。星図を50回は暗記したはずなのに、今では全部忘れてしまった。覚えているのはオリオン座と、アンドロメダの方向だけ。北東だ。

体を反転させる。これにはそこそこ手こずった。パジャマがめくれて視界を塞ぐのを、何度も手で払いのけた。

分割払い、まだ終わってないんだよな。

銀行カードの下4桁は4072。暗証番号は俺の誕生日だ。あと3回。望遠鏡はベランダの隅にある。段ボールの中にレンズクロスが入ってるはずだ。

でも、まあ、いいか。

前方に人工衛星が見える。真四角で、ソーラーパネルが広がってて、いくつか文字が書いてある。なんとか通信、かな。たぶん通信キャリアのやつだ。

電波、結構繋がるもんだな。

俺は前へ進む。背後で、地球がどんどん小さくなっていく。オリオン座がそばで、静かに輝いている。前方はアンドロメダの方向だ。250万光年。ガキの頃、その数字はものすごくロマンチックに思えた。今でもやっぱり、ロマンチックだと思っている。

ただ、ちょっとばかし寒いんだよな。

次は、一枚多めに着込んだ方が良さそうだ……

《記録終了》
備考: この直後、財団職員がSCP-CN-4766の妨害を試みましたが、失敗に終わりました。

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