クレジット
タイトル: ただのスケッチ
翻訳責任者: Radi-gon
翻訳年: 2026
著作権者: Jacob Conwell
原題: Simple Sketches
作成年: 2014
初訳時参照リビジョン: Rev.27
元記事リンク: https://scp-wiki.wikidot.com/simple-sketches
コーンウェル研究員は拘束台の傍らに立っていた。SCP-1360は彼を見つめ返す。白いプラスチック製の目は、その目がコーンウェルの一挙手一投足を追う間にも、感情を一切感じさせなかった。四人の警備員が近くに立ち、各々、無力化済みのオートマトンが脱走を試みるのを待ち構えていた。コーンウェルは軽く頷くと、傍らの手術台に置かれた小型テープレコーダーのボタンを押した。
“ジェイコブ・コーンウェル。2013年7月8日。SCP-1360-1の定期切除を開始します。サンプルはSCP-1360の下半身、左前腕、右大腿部より採取します。対象は1360-1採取前の段階では完全に協力的で、推奨警備チームは配置済み、待機状態です。”
それから、コーンウェルは小さなメスを手に取ると、アンドロイドの方へと近づいた。刃は彼の手の中で僅かに震えている。彼は目を背けられたらいいのにと思った。この作業こそが、彼が最も嫌う部分だった。コーンウェルは息を呑んで切除を始めたが、一人の警備員が彼の肩に手を置いたことによって作業は中断された。
「左手の中指から何か突き出ているようです」彼はコーンウェルの耳元で囁いた。
コーンウェルが頭を向けると、案の定、1360の指先となっているキャップの下から、小さな紙片が飛び出しているのを見ることができた。コーンウェルは警備員に小さく首肯すると、メスをテーブルの上にそっと戻した。
「拘束の用意を」とコーンウェルは小さく言うと、ゆっくりとアンドロイドの中指へと手を伸ばした。そして、彼が指を掴んだ瞬間、SCP-1360は即座に拘束具に抗いもがき始めた。マクスウェル、フォレスト、ハリソン、リーの四人は素早くアンドロイドを押さえつけにかかった。それはアンドロイドが自由になろうともがくのをますます必死なものにしただけだった。
「取ったぞ!」とコーンウェルが叫ぶ。彼はオートマトンの指から、何枚かに折り畳まれたノート用紙を引き抜いた。アンドロイドは今や、自由になるために全力を注いでおり、その抵抗は激しくのたうち回るまでに発展した。コーンウェルが急いでテープを掴み、ドアの方へと逃れている間も、1360の目は彼を捉え続けていた。
「落ち着きを得るまで拘束を維持してください!出る前にノートとペンを没収することを忘れないように!」
四人の警備員はうめき声でそれに応じると、めいめいの集中力はアンドロイドを取り逃さないようにすることへと向けられた。コーンウェルは廊下へ出ながら振り返る。アンドロイドから彼への絶え間ない視線は、収容室の扉が閉じてようやく途絶えたのだった。
コーンウェルは目の前の机の上に散らばった無数のノートの紙片を見つめながら、大きなため息をついた。どの紙片もしわくちゃでひどく傷んでおり、何度も折り畳まれては広げられたりしたようだった。SCP-1360は彼がそれらを持ち去るのを阻止しようと激しく抵抗したが、今になってようやくその騒ぎの理由を目にした彼は、期待外れに思わざるを得なかった。それぞれの紙片には小さなスケッチが描かれていた。
最初のものは、走っている1360を信じられないほど精密に描いたものだった。アンドロイドの布製の皮膚のメッシュ模様までがはっきりと見えており、1360の肩には花柄のサマードレスを着た幼い少女が乗っている。長い髪は、1360が走るにつれて後ろへとなびくように描かれ、両腕は空へ向かって高く伸ばされていた。しかし、彼女の顔だけは完全に空白のままだった。鼻もなく、目も口もない。ただの白紙だった。
2枚目の絵には、1360がスーツ姿の男性と握手している様子が描かれていた。男性は短髪で、1360自身よりも半フィートほど背が高いように見えた。スーツのしわやひだの描写に込められた細部へのこだわりは見事なものだったが、やはりその男性の顔もまた、何も描かれてはいなかった。
3枚目の絵には、1360が少女と一緒に、公園と見られる場所を歩いている様子が描かれていた。背景の木々が本物のように見えるほど細部まで描き込まれていたため、コーンウェルはまたもその絵の精巧さに驚嘆した。小さな女の子は1360の手を握りながら、スキップするように進んでいるようだった。二人ともパーティーハットをかぶっていた。しかし、やはりその少女の顔は描かれておらず、空白のままだった。
最後の絵では、1360は拳銃を構えており、その横には防弾ベストを着用したワイシャツとネクタイ姿の別の二人の男と思われる人物が並んでいた。一人はショットガンを振りかざし、もう一人はマシンガンを携えていた。彼らの服装の細部、持っている銃の構成部品、そして立ち姿にまで込められた描写の緻密さが、二人の顔だけが完全に空白のまま残されているという事実を、一層不気味で際立ったものにしていた。
コーンウェルはため息をつきながら頭を両手で抱え、机から離れて回転椅子をくるりと回した。彼はさらにしばらく間黙って座り続けたが、丁度執務室のドアをノックする音が聞こえたときに、その静寂は破られた。
「どうぞ」と彼は叫び、来客をより歓迎できるように机のほうへ身を引いた。入ってきたのが他でもないグレッグ・コリンズ博士だと分かると、彼は微笑んだ。
「調子はどうだい?」とコリンズが尋ねた。ふざけた笑みを浮かべながら、彼は机の向こう側の椅子に腰を下ろした。コーンウェルは小さく笑い、首を振りながら、コリンズが質素な家具しかない自分のオフィスを見回すのを眺めた。
「随分と居心地よくなったようだな」
「ジョンソン博士のものに匹敵する部屋を持つにはあと数年は掛かりそうですがね。最善は尽くしていますよ」とコーンウェルは答えた。「今日はどうしたんですか?」
「ザカリーに、お前はいい仕事をしているって時々伝えに行くと約束していてね」とコリンズは冗談めかして言った。「それと今日、あのアンドロイドがお前にちょっとした騒ぎを起こしたって聞いてな。話によれば、ここ数年で初めて問題を起こしたらしいが」
「その通りです」コーンウェルはスケッチを机越しに滑らせ、コリンズは慎重にそれらを見始めた。「1360が指の収納区画の一つにこれを隠していたんです。回収しようとしたら抵抗してきまして」
コーンウェルは椅子に深く沈み込んだ。コリンズは口笛を吹き、絵から顔を上げて頭をかいた。
「これは本当に上手いな。以前の所有者か?」と彼は尋ねた。
「私もそう思いました。上層部は、この人物たちの実際の身元が分かるかもしれないから、1360を問い詰めろと言っています。でも、もしそうしたとして、1360はこれまでの面談と同じように口を閉ざしたままでしょう。」コーンウェルはため息をつき、さらに椅子へ沈み込んだ。「1360が人間なら、クレイトンに頼んで、あいつの名前をあの事務屋の書類棚の一つに数日入れてもらって、その結果を見て終わりにできるんですがね。オートマトン相手じゃそうもいかない。また形式的な手順を繰り返して、結局何の成果もないまま通常の1360-1採取スケジュールに戻るだけですよ」
コーンウェルは身震いした。アンドロイドの布製の皮膚、SCP-1360-1は自己修復機能を持つアラミド繊維で、ケブラーよりも軽く、なおかつ強靭だった。その特性は財団にとって価値が高かったが、不運なことに、この布地はアンドロイドから長時間取り外されると分解してしまう。そのため、繊維の安定化と合成方法の研究を少しでも進めるには定期的な採取が必要だった。
「かなり堪えているようだな?」とコリンズは尋ねた。
「ええ」コーンウェルは答えた。「1360-1の採取は嫌いです。アンドロイドは痛みを感じると言っていますが、それがこれほど明白になることはありません。二週間ごとに生きたまま皮を剥ぐようなことをしているんですから。あの忌々しい機械がアンダーソンの居場所か、せめて以前の所有者について教えてくれれば、前に進めるんですがね。残念ながら1360は話したがりません。少なくとも、今は」
「俺も何度か同じ立場になったことがある」コリンズはうなずいた。「気持ちのいいものじゃない。俺たちのやることに楽なものなんてありはしないが、1360-1の合成法が見つかったときに生まれる利益を考えてみろ。早く見つかれば、その分早くあの可哀想なアンドロイドを切り刻まなくて済む。アンダーソンを見つけることができればなおさらだ」
コリンズは椅子から立ち上がり、コーンウェルの肩に手を置いた。
「この仕事を好きになれなんて誰も言わない」彼は続けた。「だが、なぜそれをやるのかは忘れるな。そもそも財団が何のために存在しているのかもな」
コーンウェルは机を見下ろした。重いため息をつくと、理解を示すようにうなずいた。コリンズは微笑み返し、ドアへ向かった。
「どうなったかまた教えてくれよ」そう言って彼はオフィスを出ていった。
「さて、1360」とコーンウェルはアンドロイドの向かいの席に座りながら言った。「上司たちとの協議の結果、この面談中に私に協力してくれるのなら、君のスケッチやノート、それにペンを返すよう命じられた。協力とは、あらゆる意味で、私の質問すべてに答えることを意味する。どうする?」
SCP-1360はテーブルを見下ろした。コーンウェルは彼の前に小さなメモ帳とペンを置いていた。同じ4人の警備員が近くに立ち、全員がそのアンドロイドが動くのを待っていた。部屋はしばらくの間静まり返っていたものの、やがて1360はペンを手に取り、書き始めた。
分かりました
「素晴らしい」コーンウェルは微笑んだ。そして1360の描いた絵を、その気になってもアンドロイドが破壊できないよう、手が届かないぎりぎりの距離を保って目の前のテーブルに並べた。「まず最初に、君の絵について私が立てているいくつかの仮説を確認してもらいたい。これらは君と以前の所有者であるジェームズ、そして彼の娘を描いたものだね?」
その通りです。
「やっぱりな。次の質問だが、私たちがそれを見つけたとき、どうしてそんなに必死になって取り戻そうとしたんだ? なぜあそこまで抵抗した?」
あなたたちが返してくれるとは思わなかった。
「たとえそうだったとしても、我々がペンと紙を返すまで待って、それからもう一度描けばよかったんじゃないのか?」
そんな時間があるかどうか分かりませんでした。
「どういう意味だ?」
SCP-1360はしばらくの間、動きを止めた。手帳を見下ろし、それから自分の描いた絵へと何度も視線を移した後、再び書き始めた。
アンダーソンは遠隔で私のクライアントメモリを消去できます。なぜまだ消去されていないのかは分かりません。あの絵が欲しかったのは、彼らを思い出すために、後で振り返って見ることのできる何かを残しておきたかったからです。もう一度描けるようになるまで、待つ時間が残されているかどうか分かりませんでした。
「なるほどな」とコーンウェルはまたスケッチに目を通しながら、しばらく考えた。「だとしたら、なぜ顔を空白のままにしているんだ? 君の絵はとても細かく描き込まれているのに、人間の表情を表すうえで最も重要な部分の一つを省いている」
アンダーソンのプログラミングのせいで、それ以上詳細に書くことはできません。これが私にできる限界です。これでも描きすぎているかもしれないのです。
コーンウェルはため息をついた。ジェームズの身元、そしてアンダーソンを見つけるための新たな手がかりを得ることは、どうやら実現しそうになかった。アンダーソンの先見性がまたしても勝利したのだ。コーンウェルは椅子から立ち上がり、スケッチをさらに1360のほうへ滑らせた。アンドロイドは彼を見つめたまま動かず、まるで罠を警戒しているかのようだった。
「これで必要なものはすべて揃ったよ、1360。スケッチは返してもらって構わない。ノートとペンも、あとで返却しておこう」
コーンウェルはそう言いながら書類をまとめ始めた。アンドロイドが慎重にスケッチを折りたたみ、左手中指の収納スペースへ戻す様子を、彼は小さく微笑みながら見守った。コーンウェルは無言のまま、アンドロイドが部屋から連れ出されるのを見送った。尋問は行き止まりに終わったが、少なくともSCP-1360が再び話すようになったのは収穫だった。
その面談から数週間後、コーンウェル研究員は再びSCP-1360-1の採取を担当することになった。いつもの手順に従い、彼と4人の警備員は拘束台を1360の収容セルへ運び込んだ。警備員たちはすぐに、セルの隅で通常の拘束状態にあるアンドロイドを拘束台へ移す準備に取りかかったが、そのときアンドロイドがノートを掲げていることに気づいた。ページには一文だけ、丁寧な字で書かれていた。
一つ質問してもよろしいでしょうか?
コーンウェルは手を挙げ、警備員に静止するよう示した。
「構わないとも」彼がそう答えると、1360は素早く別のメッセージを書き始め、書き終えるとノートをコーンウェルへと手渡した。
私が描いたこの人たちについて何か教えてもらえないでしょうか?
コーンウェルはアンドロイドを見た。アンドロイドはスケッチを掲げていた。
「1360…私は…」コーンウェルは口を開いたものの、言葉を失ってしまった。「彼らについて何も知らないのかい?」
アンドロイドは首を横に振った。そして3枚目の紙を掲げた。そこにはメモが書かれていた。
顧客メモリ削除済み
すまない、31号。しかし君も知っての通り、お客様のプライバシーは当社にとって最優先事項だ。少々踏み込みすぎてしまったようだ。
アンダーソン
コーンウェルはそのメモを長い間見つめ、それからアンドロイドの目へと視線を戻した。もしこのアンドロイドが感情を表現できるのなら、今はどんな感情を浮かべるのだろうか、と彼は思った。
「本当にすまない、1360。彼らが誰だったのか私が教えられたらよかったのに。私も知っていたらよかったのに」
アンドロイドはうなだれ、そのまま動かなくなった。コーンウェルも同じように頭を垂れた。しばらくして、警備員の一人が彼の肩を軽く叩いた。コーンウェルはゆっくりとうなずいた。そして4人の警備員は、SCP-1360-1の回収に向けてアンドロイドの準備を始めた。


