新たなるスシ、前進。
概論
スシ世界
軍艦あって 戦車なし
春海 由紀夫
これは戦車を愛する筆者が詠んだ鮮柳1である。読者も軍艦があるなら、戦車もあっていいと思わないだろうか?
"鮮車シャリオット"とは、戦車なきスシブレード界へのやるせなさをバネに筆者が独自開発したスシブレードである。
戦車はハンドルを握って履帯2を回すから実質スシ……と思ったのだが、どうやら同じようなことを考えた者が破門となったケースがあるらしい。残念だが本物の戦車は使えないということ。そこで、筆者は戦車を再現したスシを握りあげたのだ。
「戦車を再現したスシってなんだよ……」
「どうやって動いてんだよ……」
読者の中にはこのように思った者もいるかもしれない。なので、筆者が鮮車の握り方の基礎をレクチャーしつつ、そのメカニズムを解説しようと思う。
握るのに必要なのは以下の4ステップになる。
| ① |
![]() |
|---|---|
| ② |
![]() 材料で戦車の砲塔・ボディ・足回りを作ろう。写真は砲塔を何個か試作しているところだ。 砲塔はシャリにノリを巻いて作ることが多い。かっぱ巻きと同様の構造で握ることで戦車の砲撃を簡単に模倣することができるからだ。 ボディはシャリを丁寧に握って作っていく。適度にサビを入れるとリアルな質感に仕上がるぞ。 足回りは履帯とそれを駆動させる車輪3に分かれており、前者はノリ、後者はネタで再現する。鮮車の動力源はエンジンではなく車輪部のネタの回転力であるため、足回りこそが心臓と言える。この工程が上手くいかないと強い鮮車を握ることはままならないだろう。 以上の3パーツが完成しても、それらを組み合わせる必要はない。次のステップで自ずと形になるからだ。 |
| ③ |
![]() |
| ④ |
![]() |
以上。思ったより簡単ではなかっただろうか?
要するに、スシに戦車の概念を握って憑依させ、概念元の力の一部を継承させるのだ。その結果、外見も概念元の戦車と瓜二つ4となる。己の技術次第では緻密なプラモデルのように仕上がるため、腕に自信がある者は是非握ってみて欲しい。
スシブレード運用
多種多様な戦車を選んでスシにするという特性上、鮮車は個々の性能が大きく異なる。よって、ここでは多くの鮮車に共通する特徴を紹介しよう。
- 砲撃
戦車のイメージといえばなんと言ってもコレだ。6mmイクラ砲や2mmトビッコ機銃がメジャーだが、スシブレーダーの腕前次第ではあらゆるネタが弾になり得る。度肝と装甲をぶち抜いていけ。
- 装甲
高い防御力も鮮車の強みだ。しかし、一般的なスシと鮮車とではスシボディへのダメージの入り方に特殊な違いがある。戦車の装甲に対してダメージを与えるということは多くの場合"装甲を貫通される"こと。つまり、生半可な攻撃はほぼノーダメージということになる。しかし、油断は禁物……鮮車はあくまでもスシであるため、スシボディへのダメージは0でも回転やバランスへの影響は避けられない。また、防御しきれないほどの攻撃を受けてしまうと致命的なダメージを受け、一般的なスシより立て直しが困難となる。装甲に甘んじて雑な戦いをしているようでは勝利に程遠い。作戦あってこその勝利ということを忘れてはならない。
- 履帯
そして高い走破性能も魅力と言える。激闘や相手スシの能力によってスシフィールドが悪路となっても、鮮車であれば安定して戦い続けることが出来る。反面、一般的なスシと比較して機動力は劣ることが多い。勿論、装輪式5であれば高機動スシに食らいつくことも出来ないでもないが、火力を犠牲としなければならず悩ましい6。
高い火力・堅牢な防御力・安定の走破力……これらの強みを活かして戦うのが鮮車のセオリーである。
加えて、興味深い特徴として"概念元となる戦車の評価や逸話がステータス及び能力に影響を与える"というものもある。例えばKV-2という戦車の概念でスシを握るとしよう。
重戦車 KV-2
KV-2は"街道上の怪物"という異名を持ち、ドイツ軍の戦車師団の進撃をたった1輌で2日間食い止めたという伝説を残している。これにより、KV-2の概念が握られたスシは最新鋭の戦車の概念が握られたスシにも勝るとも劣らない防御力と持久力を発揮することが可能なのだ7。概念元の戦車の性能だけがスシの性能の全てではないということの好例と言えるだろう。
さて、ここまで長々と講釈を垂れてきたが……イメージが湧きにくい読者も多いかもしれない。百聞は一見にしかずと言うものだ。以下に筆者が握った3貫の鮮車を例に挙げよう。是非参考にして欲しい。
M4中戦車 シャーマン
中鮮車 シャリーマン
攻
防
機
持
重
操
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概念元解説: アメリカ製戦車として歴代最多の約5万輌が生産されたベストセラー8。構成部品を統一して互換性を持たせ、高い信頼性と運用効率を誇っていた。
概論: 中鮮車 シャリーマンはM4中戦車 シャーマンの概念を握りこんだスシである。他のスシと比較して飛び抜けた性能はしていないが、扱いやすく手に馴染みやすい。防御力にやや不安はあるものの、鮮車を使い始めるなら握っておいて損はないだろう。
拡張性も抜群で改造しやすく、入門から死ぬまで飽きの来ないスシであることを保証する。
突撃戦車 シュナイダーCA1
突撃鮮車 ウマイナー
攻
防
機
持
重
操
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{$label9}
{$label10}
概念元解説: 初のフランス製戦車となる戦車。鉄条網9を突破するために前方に取り付けられたワイヤーカッターが最大の特徴。
概論: 突撃鮮車 ウマイナーは突撃戦車 シュナイダーCA1の概念を握りこんだスシである。他鮮車と比較して遠距離攻撃は苦手10だが、自慢のカッパーカッターで相手スシを刺突する近接戦が得意。スシブレードの王道と言えば近接戦!と考えている者にピッタリの鮮車だ。
邪道も王道も、鮮車なら容易く走破することができる。
超重戦車 オイ車の設計図
超重鮮車 ソイ車
攻
防
機
持
重
操
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{$label8}
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概念元解説: 大日本帝国陸軍が試作した幻の多砲塔戦車。試走試験で走行装置が損壊11し、残念ながら実践投入は叶わなかった。
概論: 超重鮮車 ソイ車は超重戦車 オイ車の概念を握りこんだスシである。重量・火力ともに圧倒的であり、巨体と多砲塔から放たれるプレッシャーも他の追随を許さない。しかし、その代償として予期せぬ回転停止による敗北のリスクが常に付きまとう12。また、概念元の存在が諸説入り乱れているため、このスシを握るにはスシブレーダーの強いイメージ力も必要不可欠である。
理想を思い描き、短期決戦に全てを賭けろ。
これらに限らず概念元となり得る戦車は多数存在する。また、実際の戦車と違い鮮車はより自由なカスタマイズも可能だ。自身だけのスシを組み上げることで、情報アドバンテージにおいても優位に立てることだろう。
余談だが、先程紹介したスシには全て名前が付けられていることに気がついただろうか?
「道具に名前なんているかよ!」という意見は最もで、闇寿司の構成員は殆どスシに名前を付けない。だが、筆者は戦車が好きなのでテンションがどうしても上がってしまうのだ。好きなモノって愛着が湧いて、名前を付けたくなるものだろう?
無論、ふざけている訳ではない。筆者は無意味に見えるこの行為で渇ききった心を潤している。戦いに向けたメンタルケアも重要なのは紛れもない事実だ。
何より、愛着は強い力になる。
エピソード
闇寿司の中で私と同じく戦車の概念を握ったスシを回している者がいた。貴重な鮮車ミラーマッチであるため、エピソードとしてここに記しておくことにする。この情報が今後、鮮車を握る者が増えた時にきっと読者を助けると信じて。
???: あらゆる戦車の力を操るスシブレーダーとは、君かい?
その男は突如として俺の前に立ちはだかった。俺の噂を耳にし、挑戦しに来たといったところだろうか。
俺: ……そうだと言ったら?
西野: 藪から棒ですまないが、手合わせ願いたい。確かめてみたいんだ、どちらの"鮮車"が強いのか。
俺: 驚いた。まさか、俺以外にも戦車の概念を握りし者がいるとはな……面白い、相手になってやる!
西野: 話が早くて助かるね。
闘争に燃える視線が交差する。これは恐らく、人類史上初の鮮車戦となる。歴史の1ページを刻む戦いを前に、互いのボルテージが上がっていくのを感じた。
俺: 参る!
西野: 負けないよ!
「「3!2!1ッ!」」
「「へいらっしゃい!!」」
そして
「「鮮 車 前 進!!」」
互いのスシが着地し、力強い駆動音が響き渡る。
俺は相手のスシを確認した。まず、相手が何の戦車の概念を握ったのかを把握することが大切だ。情報アドバンテージは作戦においても重要であることは自明である。
あれは恐らく
M1A2 エイブラムス
エイブラムスシ(?)
攻
防
機
持
重
操
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概念元解説: アメリカが開発した現役バリバリの戦後第3.5世代主力戦車。アップグレードを重ね続け着実に改良されたことで、多くの者が"最強"と呼ぶのも頷ける性能となっている。
概論: 西野がM1A2 エイブラムスの概念を握り込んだと考えられるスシ。概念元も優秀な戦車だが、それすら凌駕する高いステータスを持っている。これは西野のカスタマイズが関係しているようだ。
俺: M1A2 エイブラムスか…… スシの材料でここまで精巧に戦車を再現できるとは、只者ではないようだな。エビフライを砲塔にしているのがユニークで興味深い。
西野: スシ・オーラに包まれた本体の材料をも看破するなんて流石だね。でも残念、半分正解といったところかな。これはただのエイブラムスじゃないからさ。
俺: なんだと?……いや、どうみてもそれ以外には見えん。西野: 確かにM1A2 エイブラムスの概念を握っているし、外見もその通り。でも、その中身は全くの別物……それ以上の性能を誇るエイブラムスX13の概念を追加で握り込んだカスタム機なのさ!
俺: まだ見ぬ未来をも手中に収めたというのか!?西野: その名も"エビブラムスX"!!
俺: カッコいい名前だな。
西野: 夜通し考え抜いたからねぇ!
西野は凡人では到底不可能と言われる概念の二重掌握を成し遂げていた。それだけに留まらず、殆ど情報の出揃っていない未来の戦車の概念を握りあげるという離れ業……並のスシブレーダーには決して為せない芸当である。
これでもかと言わんばかりのドヤ顔を披露した後、西野は視線を俺のスシへと移した。
西野: どれ、君の概念元は……なんだって!?
俺: 腰が抜けたか?
Mark I戦車
Mark I鮮車
攻
防
機
持
重
操
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{$label8}
{$label9}
{$label10}
概念元解説: 第一次世界大戦にてイギリス軍が1916年の"ソンムの戦い"に投入した菱形の戦車。実戦投入されたものの中では最古の戦車である。
概論: Mark I鮮車は筆者がMark I戦車の概念を握りこみ、独自のアップグレードを施したスシである。概念元が手探りの中で生まれ、改良の余地も多く存在していたためステータスは低め。だが、そんなものは俺自身の力量でカバーすればいい。
「わざわざステータスの低いものを使わなくてもいいのに……」と読者は思ったことだろう。しかし、このスシはステータスを代償に恐怖の能力を秘めているのだ!
西野: 最古の、戦車……!
俺: サイコーの戦車、だろ?
西野: ……くく、はーっはっはっは!!
俺: 面白かったか?
西野: 面白い面白い!僕のスシは戦車の最先端、更にその先を行く戦車の力を宿している。約100年前の戦車とは如何ともしがたい性能の差があることは火を見るよりも明らか……これで勝てると思ってるならお笑いだ、勝負にもならないね!
俺: 確かに勝負にならないかもしれない。お前がMark Iに怖気付いてな。
西野: 強がりが言えるのも今の内さ!いくよ!!
過去VS未来。
スシとなった2輌が今、時を超えて激突する。
西野: 性能差で絶望させてあげるよ。エビブラムスX、最高速!
俺: は、速い……これが未来の力なのか!?
西野: 従来のエイブラムスから10t以上もの軽量化に成功しているからね。新型のエンジンで持久力も抜群さ。ついて来れるかな、最高速度が時速約6kmだったMark Iに!
俺: ついて行けないな。
西野: おや、随分と弱腰だね。拍子抜けしちゃうじゃないか。
俺: だから、ついて行けるようにする。
「竜の米りゅうのまい」
俺はMark Ⅰを幽玄なる竜の舞の如く、力強く回転させた。そして、6mmイクラ砲の砲身からシャリを無数に発射する。
西野: フィールドに……シャリが立った!?
俺: 「竜の歯ドラゴン・トゥース」という戦車の進撃を妨げる防御用障害物から着想を得た技だ。シャリを相手の進行方向へ無数に発射しキルゾーンを生成。そこに入れば最後、シャリの粘性で機動力はガタ落ちとなる。如何なるスピードを持つスシも、まともに食らえば蚊蜻蛉同然だ。逃げ回ることはできんぞ。
西野: に、逃げ回っているだと!?そんなはずないだろう!!
俺: おいおい、よそ見してるとキルゾーンに入っちまうぞ?
西野: っ!……しまった、スピードを出し過ぎたか。このままでは
???: 任せてください、マスター。
エビブラムスXがキルゾーンの魔の手に堕ちると思われた時、何者かの声が響く。
瞬間、人間には到底不可能と思われる速度で旋回し、キルゾーンへの侵入を華麗に回避した。いくら西野の腕が確かだったとしても考えにくい挙動に俺は困惑した。
西野: ……"アガリ"、キルゾーンへ入らないよう制御を頼む。
アガリ: お安いゴヨウのタイヘイヨウです!
突如として響いたアガリと呼ばれる者の中性的な声。それはどうやら、エビブラムスXから発せられているようだった。
俺: スシが喋った!?
西野: 紹介が遅れたね。彼は僕が開発してエビブラムスXに搭載したAIの"AgarI"さ。
俺: これまたカッコいい名前だな。
西野: これまた夜通し考え抜いたからねぇ!
アガリの正体はなんと、スシに搭載された人工知能らしかった。すげぇな未来。
そして、西野のドヤ顔は止まらない。
西野: 彼はスシブレード特化型のAIで
アガリ: この戦いもイッチョ"アガリ"、スシAIのアガリでーす!よろしくね、お相手さん!
俺: 元気でいいね。
アガリ: 元気が一番!よっ、いぶし銀!!
西野: 僕、まだ喋ってるんだけど……。
何がいぶし銀なのかは分からなかった。
アガリ: そう言えばマスター、面白そうなサメ映画を見つけたんですよ。CGがとびきりチープなやつ。この戦いの後で一緒に見ましょう!
西野: アガリ、お前は戦うためだけのAIなんだって何度言えば分かるんだ。無駄な思考は省いて最善を尽くしてくれ。
アガリ: 毎度思うんですけど、もう少しフレンドリーにしてくれてもいいじゃないですか〜。
西野: いい加減にしろ!アガリ、目の前の敵を撃破することだけ考えるんだ!
アガリ: はーい。
西野: 余計なことをペラペラと……君はAIなんだから、それらしくしていてくれないと困るんだよね。
アガリ: うえーん。
俺: かわいそー。
西野: こっちの問題なんだから、対戦相手である君には関係ないだろう!
アガリくん、かわいそう……だが、確かに西野の言う通り俺には関係のないこと。気を取り直して戦いに集中することにした。
西野: 概念元となるエイブラムスXにはAIが搭載されているのは君も知っているだろう?それによって、僕のスシもAIによる制御が可能となったんだよ。要するに、人間を超越した戦況予測能力と操作精度を手に入れたのさ。
俺: なるほど。一筋縄ではいかなさそうだな。
西野: さて、困ったことに君の技によって縦横無尽の走りは封じられてしまった。よって、取るべき手段はただ一つ。
俺: 砲撃による一撃必殺、とかか?
西野: ああ。ところで、旨いエビの食感ってどんな感じだと思う?
俺: ん?……そりゃ、プリっとしてて弾力があって
西野: その通り!今それを君に食らわせてあげるから、感謝するといい!!
「弾跳爆撃シュリンプ・ボミング」
アガリ: 反跳爆撃スキップ・ボミングは航空機での攻撃手段で、鮮車の必殺技名の元ネタにするのは微妙ですよね。"エビポンファイヤー"とするのはどうですか?
西野: 君はもう喋らないでくれ……。
アガリ: ちぇー。
アガリ: あ、あとお相手さん、竜の歯ドラゴン・トゥースは第二次世界大戦で用いられたものですね。第一次世界大戦でのみ用いられていたMark I戦車モチーフのスシの必殺技名としては
俺: アガリくん?おじさんは今戦いに集中してるから後にしてくれる?
アガリ: はーい。
唐突に発せられた砲弾は15mm程と考えられる輪切りエビ弾。直撃すればひとたまりもない威力だが、砲弾は明後日の方向、遥か彼方に飛んでいった。
俺: おいおい、どこを撃ってるんだ。ちゃんと狙わないと当たらないぜ?
西野: 君がそう思っているなら狙い通りさ。
俺: なんだと?
安心したのも束の間、遠くから何かが急接近するのを感じた。
まさか、これは
俺: 後ろか!?
遠くへ放たれたエビ砲弾がなんと、想定外の方向から勢いを保ちつつ向かっているのを視認した。俺はそれに間一髪で反応し、6mmイクラ砲でエビ砲弾を相殺した。
凄まじい爆風が俺のMark Iを襲う。
俺: ぐわーーーっ!!!!
アガリ: おやー、私としたことが仕留め損ねました。もっと複雑な弾道を描くように制御すべきでしたかね〜。
西野: プリっとした弾力のある輪切りエビ砲弾は、スシフィールドの壁に当たると勢いよく跳ね返る。その弾道をAIで制御することで、正確かつ予測困難なオールレンジ攻撃を仕掛けることができるのさ。
俺: くっ……だが、爆風だけじゃ俺の装甲に傷はつけられないぜ。
西野: 言う通りだね。でも、これは戦車ではなくスシブレード。強い風を受ければ回転力やバランスに大きな影響を与えることには間違いないよ。
アガリ: さ、いつものやっちゃいましょ〜!
西野: 一気に蹴りをつける!全弾発射!!
アガリ: え、全弾はっ……え?え?
西野:
「弾跳爆撃シュリンプ・ボミング」
アガリ: う、うわー!ちょっと待ってくださーい!!
西野はやけくそ気味に弾跳爆撃シュリンプ・ボミングを2連発する。おそらく、エビブラムスXの形状から考えてエビ砲弾は残り7~8発はあるはずだ。
しかし、さきのを最後にピタリと砲撃が止む。どうやら、何らかのトラブルが生じたらしい。
仕掛けの分かりきったものが2発同時に飛んでくることなど、大した脅威ではない。俺は持ち前の砲撃の腕で迫るエビ砲弾を遥か遠方で相殺した。
西野: なんだ、どうして撃てなくなったんだ!?
アガリ: その、残念ながら……
エビフライが
曲がりました。
西野: どういうこと!?アガリ: 砲身が曲がって撃てなくなっちゃったんですよ。間を置かないで砲撃したことで、エビフライ砲身に十分な冷却がなされないまま加熱されたことが原因かもです。砲弾が溢れないように残しておいたエビのスジは、熱が加わることで曲がってしまいますから……。
西野: くっ、なんなんだよもう!
アガリ: いつもだったら時間を空けて発射して時間差攻撃を仕掛けているはず……マスター、いつもより余裕が無さそうです。大丈夫ですか?何か、いつもと違うような、そんな感じがします。
西野: そんなことはない!
俺: いいや、アガリくんの言う通りだ。逃げ回るような走行の仕方も、雑な砲撃も、お前に起きている異変によるものに他ならない。
西野: 何を言って
言いかけて、尻もちをつく。
西野はここまでだったようだ。他のスシブレーダーよりも長く耐えられた方だな。
西野: あれ、あれ……なんで力が入らないんだ、なんで……。
アガリ: マスター!?大丈夫ですか!?
俺: 心配はいらない。命に関わることはないからな。だが、もう西野はこの戦いが終わるまでは立つことすら難しいだろう。
アガリ: いったい、マスターに何を!!
もうタネを明かしても構わない。西野はもう、敗北が確定しているのだから。
俺: 西野、俺のスシの概念元であるMark Iがどんな戦車か知っているか?
西野: 戦う前にも言ったはず!最古の戦車、実践投入された人類史上初の戦車、それがMark Iだ!
俺: その事実こそが俺のスシの能力に関わっている。
西野: どういう、ことだい?
俺: 教えてやるよ。
「原点凱気オリジン・プレッシャー」
西野: ひっ……。
俺: 戦車なき時に生まれた戦車。身動きの取れぬ塹壕戦で、迫り来る未知の鉄塊……それを前にした兵士はどんな気持ちだったと思う?
西野: っ……まさか
俺: 初めて目の当たりにする兵器の恐怖……俺のスシはそれを対戦相手に与え続ける能力を持っている。得体の知れない恐怖の蓄積が普段の冷静さを奪っていき、最後は立つことすらままならぬ程に精神を追い詰めるのだ。
西野: くそっ、動けよ、僕の足!
アガリ: マスター!!
アガリくんの様子には変わりがない。どうやら俺の恐怖戦術はAIには効かないようだ。元気でいいね。
だが、もう手遅れだ。
俺: 戦意喪失したスシブレーダーが操るスシなど、ただの食い物に過ぎん。介錯してやる。
西野: ……!嫌だ、負けたくない!負けたくない!!
西野はその場で立ち上がろうとするが、叶わない。それもそのはず、全身が恐怖で震えて既に戦える状態にはなかったのだ。
西野: やめてくれ、もうやめて、ください……。
アガリ: ちょっと、イクラなんでも情けないですよマスター。確かに負けたらエビブラムスXとアガリは失われますが、また作ればいいじゃないですか〜。
西野: 嫌だ、嫌だ……!
正直、"このまま"なら何もしなくても勝てる。だが、それでは面白くない。
俺の見立てでは、西野達はもっと面白い戦いが出来る。
そんな考えが頭をよぎると、悪い癖でつい余計な事を口走ってしまった。
俺: アガリくん、君のマスターが俺のスシ以上に恐れているものがある。なんだか分かるかい?
アガリ: うーん、やはり敗北することでしょうか。
俺: 君のマスターの言葉を借りれば「半分正解といったところかな」。正解は、この戦いに負けて君を食べることだよ。
西野: 君に僕の何が分かるのさ。アガリは単なる道具に過ぎない。僕はただ、黒星が付くことを恐れてるだけだよ。
俺: 名前、付けてるだろ?
西野: ……。
俺: 好きなモノって愛着が湧いて、名前を付けたくなるものだろう。エビブラムスX、そしてアガリくん……単なる道具ではないと思っているからこそ、素敵な名前を付けてあげたんじゃないのか?
「道具に名前なんているかよ!勝てればいいんだよ!勝たなきゃ意味がないんだ!」
これは、かの有名なハンバーグ使いが"回転寿司 勝"の襲撃の際に言い放った言葉として伝わっている。
そう、我々は勝てればそれでいい。戦う道具に名前は不要、最もな話だ。それでも敢えて一生懸命考えた名前をスシとAIに付け戦いに興じる
西野がエビブラムスX、そしてアガリくんを少なからず大切に思っているのは明らかだった。
西野: はぁー、参ったな。そんなことまで見透かされてるなんて。
俺: お前のエビブラムスXはアガリくんと一心同体となることで、より高い性能を引き出せるはずだ。なのに何故、お前はアガリくんを精神的に遠ざけようとしている?
西野: ……怖かったんだ。敗北してアガリを失うことが、ずっとね。
アガリ: マスター?
西野は静かに、アガリくんへ心の内を語り始めた。
西野: 僕は闇寿司に入ってから、ずっと独りぼっちだった。ただただスシを開発し、戦い、また開発する。誰かと馴れ合う時間なんてない。強さを求める闇の道はそういうものだから当然だね。そう分かっていても、僕は毎日寂しさに押し潰されそうで、先の見えない闇の中を歩く事がままならなくなりつつあった。
西野: そんなある日、僕は戦車を操るスシブレーダーの噂を聞いてエビブラムスXの開発に着手した。それに搭載するためのAIとして開発したのがアガリ、君だった。
西野: 当初はAIに感情やお喋りの機能をつける予定はなかったし、そのつもりもなかった。でも、無意識に燻ってた孤独のせいで魔が差してしまったのだろうね。気づいたら僕は、君を今みたいに朗らかな性格を持つよう作ってしまっていたんだ。
西野: 一言多くてちょっぴりウザいけど、いつでも楽しそうに僕に話しかけてくれる……闇の中を照らす1貫の光り物のような存在。本当はずっと、そんな君と友達になりたいと思ってたんだ。仲良くしたかったんだよ。
アガリ: それなら最初から仲良くしてくれれば良かったじゃないですか。アガリだって、マスターと仲良くなりたくてお喋りしてたんです。でも、いつもなんだか冷たくて……こう見えて、ずっと寂しかったんですよ?
西野: 仲良くしたら、君と友情を育んでしまったら……負けてしまった時に立ち直れないじゃないか。
西野: 君を乗せたエビブラムスXは"皮肉にも"僕史上最高傑作。だから、強さを求める闇寿司に身を置いている以上、君を失う覚悟で勝負し続けないといけなかった。
西野: 敗北したスシブレーダーは自分のスシを食べるのがルール。万が一のことで君を失って途方に暮れるくらいなら、初めからアガリを道具としか見なければいい。だから、僕は友達になりたい気持ちを押し殺し、君に冷たくし続けてしまった。
西野: 今までごめん。本当にごめんね、アガリ。
アガリ: ……謝らないでください。マスターはそんな葛藤の中で戦い続け、スシブレード特化型AIとしての使命を全うさせてくれたんです。かっこよくて、立派で、最高にいぶし銀です!
西野: ありがとう……でも、それもここまでみたいだ。カッコ悪い最後で、君を生かしてあげられなくて、本当にごめんよ。僕はもう
任せてください、マスター。
西野: アガリ……?
アガリ: エビブラムスXの全制御権を、アガリに。
エビブラムスX、再起動。
勝負はまだまだ面白くなりそうだ。
西野: 勝手なことはやめるんだ!
アガリ: 現状、精神攻撃の効かないアガリがエビブラムスXの全制御を担った方がいいでしょう。それに、スシブレード特化型AIが戦わずして負けてしまってはその名が廃ります。
西野: 僕たちは負けたんだ、もう戦わなくていい。それに、彼の砲撃の精度を見ただろう?そのまま突っ込んでもイクラ砲の餌食になるだけだぞ!
アガリ: この距離では副武装のみでダメージを与えるのは不可能。より接近する必要があります。残された勝ち筋はそれだけです。
西野: 勝てるわけがない!止まってくれ頼む!降伏すれば君は木っ端微塵にならなくて済むんだよ!
アガリ: そうならなくても、負けたらアガリはマスターに食べられて消えます。なら、最期まで使命を全うしたい。この身がバラバラになることなんて、ちっとも怖くありません。
アガリ: あと、かっこいいマスターに降伏しただなんて恥をかかせたくないでスシね。
西野: アガリ……。
アガリ: アガリのいぶし銀なところ、見ててくださいね。
エビブラムスXがキルゾーンを華麗に避けつつ接近してくる。しかし、AIの持つ僅かな規則性を俺は見逃さなかった。
アガリ: よし、このコースなら……!
俺: そこに来ることは読めていた。イクラ砲、発射!!
アガリ: くっ、うわっーーーー!!
俺はエビブラムスXへ砲撃を直撃させ、遥か後方に吹き飛ばす。
その先は、キルゾーンだ。
アガリ: しまった……!
俺: これがホントのイッチョ"アガリ"ってやつだな!もらったぁーー!!
アガリ!!制御権を僕に!!!!
アガリ: マスター……?
西野: 僕も、戦う!!
アガリ: でも、マスターはもう恐怖で戦えないはずじゃ
西野: 僕だってスシブレーダー。戦わずして負けてしまってはその名が廃るよ。
西野: それに、大切な"友達"を独りぼっちにするわけにはいかない。
アガリ: マスター……!
西野: 一緒に戦って、一緒に勝つよ!アガリ!!
アガリ: もちろんです!制御権限、初期化します!!
西野は力強く立ち上がり、真っ直ぐな目で俺を見た。そこにはもう恐怖心は微塵も感じられず、瞳の奥には決意の炎が燃え滾っている。
彼らの心が今、一つになった。
俺: 面白い……友への気持ちで恐怖心を克服したか!見せてみろ、お前達の本当の力を!!
西野・アガリ: 望むところ!!
エビブラムスXの損傷した海苔帯が絆の叫びによって突き動かされ、激しく回転し始める。キルゾーンのシャリをものともしないパワー。
これが彼らの本気。
受けて立つのに不足はなかった。
俺: 最後の一撃だ!!うおーーーー!!!!
西野・アガリ: はぁーーーーっ!!!!
衝突。
眩い光、轟音。
瞬間、時が止まったようだった。

俺: ふん。面白いじゃねぇか。
Mark I鮮車、海苔帯の大破によって走行不能。
勝利を収めたのは西野とアガリくんであった。
西野: ……俺たち、勝ったのか?
アガリ: やった!やりましたよマスター!!
西野: 本当に、本当に、勝てたんだ……うおぉぉぉ!!!!
強敵を撃破した喜び、そして相棒を失わずに済んだ安堵。感情が一気に押し寄せた結果、西野は勝鬨を上げずにはいられなかったのだろう。
俺: 完敗だ。強いな、お前たち。
アガリ: それほどでもでも〜。
西野: ……黙っていれば勝てたものを、何故わざわざ敵に発破をかけるようなことを言ったんだい?
俺: 悪い癖。それだけだ。
西野: ……ありがとうね。
俺: この借りは必ず返す。首を洗って待っておけ。
西野: 待っているさ!次も負けないけどね!
アガリ: けどね!
愛着は強い力になる……西野とアガリくんはもっと強くなるだろう。俺も彼らに負けぬよう、これからも日々鍛錬を積むことを誓った。
西野: そろそろ帰ろうか。アガリのオススメの映画が気になってしょうがないよ。
アガリ: 急ぎましょう、「オフトン・シャーク」は配信終了まで残り5時間42分53秒ですよ!
西野: やばい!急がないと……では、また会おう!
俺: ああ!
西野は俺と硬い握手を交わすと、何処かへと立ち去っていく。
西野: 負けることを考えて戦うスシブレーダーはいない。そうでしょ?
アガリ: その通り!よっ、いぶし銀!!
西野: これからも勝ち続けて、ずっと友達でいよう!アガリ!!
アガリ: もちろんです!マスター!!
俺は彼らの背中を静かに見送る。
俺: さながら"スシの声を聞くスシブレーダー"……なんてな。
どこかで聞いた御伽噺をふと思い出し、そのバカバカしさに自ずから笑ってしまった。
俺: さてと、スシでも食うか。ごめんな、Mark I。
刹那の戦いで育まれた永遠の絆。それを見ながら食べる自分のスシは、決して悪くはない味がした。
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文責: 春海由紀夫












